貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜

「ごめん……二葉……バレないように隠れてたつもりだったんだけど……」
「あはは、まぁ……ちょっと隠れきれてなかったかもねぇ」
「あなたあれで隠れたつもり? 甘いわね。まぁとりあえず座ったら?」

 真梨子に追い打ちをかけられ、申し訳なさそうに二葉の隣に座る。その背中を二葉は優しく撫でる。

「仕事は?」
「大丈夫。ちゃんと終わらせてから来たよ」
「そっか。お疲れ様」

 真梨子は二人の様子を見ながらクスクス笑う。こうして客観的に見てみれば、微笑ましいお似合いのカップルね。

「なんだか不思議ね。まるで生徒同士のカップルを見ているような気分になるわ。そういえば、あなた高校はどこなの?」
「私ですか? 海鵬(かいほう)です。こう見えて陸上部だったんですよ。しつこい元カレを何度も振り切りましたから」

 二葉は胸を張って力瘤(ちからこぶ)を作るような動作をする。それを見た真梨子と匠が笑い出す。

「副島くん、本当に面白い子を見つけたわね」

 匠は愛おしそうに二葉を見つめ、髪を撫でたていく。すると彼女は照れたように頬を染めた。

「本当。俺にはもったいないくらいの子です」
「はいはい、ご馳走様。仲が良くて何よりね」

 その時だった。バーの入口に目をやった真梨子の目に、思わぬ人物が入り込んだのだ。
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