貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
譲がソファに座ったので、真梨子も隣に腰を下ろす。そして譲が持ってきたカクテルを見て目を輝かせた。
「わぁ、今日は可愛いカクテルなのね」
「ピニャコラーダとオリンピック。どちらがお好みかな?」
真梨子はふと出会った日のことを思い出す。花言葉があるように、カクテル言葉があると教えてくれたのは譲だった。
「……意味は?」
「……ピニャコラーダが『淡い思い出』、オリンピックが『待ち焦がれた再会』」
それを聞いて、真梨子はふっと笑う。
「つまり昔話をしようってことね」
「正解」
「じゃあピニャコラーダ。見た目が可愛いし」
グラスの縁に飾られたパイナップルを指差して言うと、譲はグラスを真梨子に手渡した。
「うふふ……美味しいお酒は幸せになれるわね。あなたに初めて会った日も、同じことを思ったのを今でも覚えてる……」
「真梨子は元彼に最悪な噂を流されて怒ってたよな」
「あなたはVIPルームで女の子のお尻を撫で回してたわね」
「そうだったっけ? もう忘れたよ」
知らないフリを装うが、明らかに目が泳いでいる。
「……あの頃のあなたは、どういう人達とつるんでたの? まぁ例えばだけど、一緒にVIPルームにいた人たちは友達?」
「あぁ、あの日一緒にいたのはみんなこの辺の友達。それぞれの実家が老舗の店をやっててさ、まぁ要は坊ちゃんたちだよ。今はみんな家業を継いでてね、地域振興について話し合ったりしてるよ」
「……あら、もっと下品なものを想像してた」
「まぁあの頃はみんな相当遊んでたしね。だから寄ってくる女の子はみんなそれ目当てばっかり。あの日真梨子に言っただろ? ちょっと面倒だって」
つまり彼らのお金目当ての女ってこと?
「真梨子は何も知らずに友達になったからさ、俺にとっては打算のない関係が気持ち良かったんだ」
譲の抱えていた事実が少しずつ明らかになる。真梨子は口を閉ざして聞いていた。