貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
譲は一度口を閉ざしてから、真梨子をじっと見つめる。
「だからさ、真梨子。俺と改めて友達になってほしい。今度はちゃんと真梨子のことを知りたいんだ」
あの頃のように燃え上がるような二人じゃなくても、譲のそばで感じる安心感は、友達というポジションでも十分に感じることが出来る。
「そうね……私も譲のことをもっと知って、ちゃんと友達になりたい。でも男女の友情って存在するの? あなたに恋人とかいて、修羅場になるのは御免よ」
譲は声を上げて笑い出す。
「今は特定の人はいないよ。それに男女の友情、俺はアリだと思っているけどね。ただ、友情から愛情に変化することだってあると思う」
真梨子は返事に困って下を向いた。私のことを言っているわけじゃないわ……期待なんてしない……。それにまだ私は結婚しているの。そんな不埒な考えをするのはおかしい。
そう自分に言い聞かせるのに、ドキドキが止まらなかった。
「じゃあそろそろ帰るよ」
譲の手が髪に触れると、真梨子は急に呼吸の仕方を忘れたように苦しくなる。
「私のせいでここに泊まれないのよね……ごめんなさい」
立ち上がった譲に、真梨子は申し訳なさそうに話しかける。
「気にしなくていい。それともここに俺が泊まってもいいのか?」
「それは……困るわ」
「だろ? 俺のことはいいからゆっくり休めよ」
手を振りながら、彼の香りが残るこの部屋を出ていく譲の背中を、真梨子は寂しげに見送った。