貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
譲はTシャツにジャケットを羽織ったカジュアルなスタイルだった。真梨子は海を意識して、パンツにニットを合わせた。
これは友達と出かけるだけ。遊びに行くだけよ。少し後ろめたい真梨子は、そう自分に言い聞かせる。
譲はコーヒーを一口飲むと、車を発進させた。
「そういえば、さっき匠と電話で話したんだ。君のご主人、あれから肩を落として帰っていったそうだよ」
「……そう」
「あれだけ言われれば、かなりショックを受けただろうね」
「……でしょうね」
晃の話題が出たことで、真梨子は更に気まずそうに窓の外を見る。
「君はあの子にどこまで話したんだ?」
「二葉ちゃんに? ……主人とのことは、要点のみ大まかに話したわ。あなたたちのことは話してない」
それは譲と匠のことを示していた。
「まさか俺たちが昔から友達だったなんて知ったら、二人とも驚くだろうな。いや、ちょっと見てみたい気もするけど」
「あなたね……」
「だって最近の匠って面白いんだよ。元々愛想は良かったけど、あまり慌てたり怒ったりはしない奴だったんだ。それが二葉ちゃんが絡むだけで表情がコロコロ変わるし、彼女を守ろうとする逞しさも感じる。男として成長したなぁって思うんだ」
「……二葉ちゃんのお陰かもしれないわね」
「それは真梨子自身もそう思うから?」
譲に言われ、真梨子は頷いた。
「自分以外の人の心に寄り添って、誰かのためにあんなに一生懸命になれる子に、私は出会ったことがないわ。高校生ならまだしも、大人になってまでそれを続けることって、なかなか難しいと思うの。だからこそ私はあの子に救われた」
真梨子の表情を見た譲は、どこか嬉しそう笑みを浮かべた。
「俺もちゃんと話してみたいな。匠と真梨子をこんなふうに変えちゃうんだからな」
真梨子は譲の横顔に目をやる。こうして譲の運転する車で再び出かける日が来るなんて……。
譲といると気を遣わなくて良いのが楽だった。無理して会話する必要もないし、飲み物も勝手に飲んでくれる。
「音楽聴いてもいい?」
「いいよ。相変わらず洋楽好き?」
「それも好き。でも生徒に教えてもらった曲も結構気に入ってるの」
「へぇ。どんなの?」
真梨子は譲の車とBluetoothで繋ぎ、音楽をかけ始める。晃の前では決して聞けないような曲だった。
「最近あまり音楽って聴かなくなってるんだよな。でも……いいね、この曲好きだな」
音楽に合わせてハンドルを指で叩く譲を見ながら、真梨子は思わず頬を緩めた。
好きなものを好きと言ってもらえることを、もうずっと忘れていた。
これは友達と出かけるだけ。遊びに行くだけよ。少し後ろめたい真梨子は、そう自分に言い聞かせる。
譲はコーヒーを一口飲むと、車を発進させた。
「そういえば、さっき匠と電話で話したんだ。君のご主人、あれから肩を落として帰っていったそうだよ」
「……そう」
「あれだけ言われれば、かなりショックを受けただろうね」
「……でしょうね」
晃の話題が出たことで、真梨子は更に気まずそうに窓の外を見る。
「君はあの子にどこまで話したんだ?」
「二葉ちゃんに? ……主人とのことは、要点のみ大まかに話したわ。あなたたちのことは話してない」
それは譲と匠のことを示していた。
「まさか俺たちが昔から友達だったなんて知ったら、二人とも驚くだろうな。いや、ちょっと見てみたい気もするけど」
「あなたね……」
「だって最近の匠って面白いんだよ。元々愛想は良かったけど、あまり慌てたり怒ったりはしない奴だったんだ。それが二葉ちゃんが絡むだけで表情がコロコロ変わるし、彼女を守ろうとする逞しさも感じる。男として成長したなぁって思うんだ」
「……二葉ちゃんのお陰かもしれないわね」
「それは真梨子自身もそう思うから?」
譲に言われ、真梨子は頷いた。
「自分以外の人の心に寄り添って、誰かのためにあんなに一生懸命になれる子に、私は出会ったことがないわ。高校生ならまだしも、大人になってまでそれを続けることって、なかなか難しいと思うの。だからこそ私はあの子に救われた」
真梨子の表情を見た譲は、どこか嬉しそう笑みを浮かべた。
「俺もちゃんと話してみたいな。匠と真梨子をこんなふうに変えちゃうんだからな」
真梨子は譲の横顔に目をやる。こうして譲の運転する車で再び出かける日が来るなんて……。
譲といると気を遣わなくて良いのが楽だった。無理して会話する必要もないし、飲み物も勝手に飲んでくれる。
「音楽聴いてもいい?」
「いいよ。相変わらず洋楽好き?」
「それも好き。でも生徒に教えてもらった曲も結構気に入ってるの」
「へぇ。どんなの?」
真梨子は譲の車とBluetoothで繋ぎ、音楽をかけ始める。晃の前では決して聞けないような曲だった。
「最近あまり音楽って聴かなくなってるんだよな。でも……いいね、この曲好きだな」
音楽に合わせてハンドルを指で叩く譲を見ながら、真梨子は思わず頬を緩めた。
好きなものを好きと言ってもらえることを、もうずっと忘れていた。