貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 お土産売り場で購入した限定のお菓子や、ゲームセンターで譲に獲ってもらったシマエナガのぬいぐるみなどを車のトランクにしまい、真梨子は助手席へと乗り込む。

「真梨子がああいう人形を好きだとは思わなかった」
「実は……お笑い番組を観てた時、女子高生に扮した芸人さんがね、カバンの中から歌いながらスズメの人形を取り出したの。それから頭からあの歌が離れなくて……まさかゲームセンターで手に入るとは思わなかったわ」
「でもあれ、スズメじゃないぞ」
「いいの。スズメだと思い込むから」

 その途端、譲が笑いを堪えるように下を向いた。

「運転中にそういう面白いことを言わないでくれよ!」
「な、何よ! 別にいいでしょ、私が何をしたって」
「いや……違うんだよ。俺もその番組観てるから知ってるだけ。でもまさか真梨子がお笑い番組を観てるなんて……!」
「わ、悪い? ……好きなんだから仕方ないでしょ」
「悪いなんて言ってない。ただそのギャップがたまらないなって思っただけだよ」
「……まぁ……それならいいんだけど……というか、あなたはどのネタが好きなわけ?」
「俺? 最近だと鼻にティッシュ詰めてたバンドのやつが面白かった」
「あぁ! わかる! あの二人も面白いわよね」

 こんな会話、生徒としかしたことないわ。ずっと大人な真梨子でいたから、こんなふうにふざけた会話なんて出来なかった。

 こんな私を見せたって、譲は引いたりしないで受け止めてくれるのね。
< 86 / 144 >

この作品をシェア

pagetop