貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
「ねぇ、《《今度は》》私が聞いてもいい?」
真梨子の言葉から、彼女の聞きたいことを悟った譲は、困ったように笑うと頷いた。
「結婚してたのはいつ頃?」
「一年位前に、俺がいつまでも独り身でいることを心配した父が、自分の知り合いの娘だっていう女性との縁談を持ってきたんだ。相手は一回りも年下でね、会話も合わないしどうしたものかと悩んでいたんだ。でも親たちが勝手に結婚話を進めて、あっという間に結婚。ただそれからいろいろあってね、彼女は実家に戻ったきり、家には帰って来なくなったんだ。式を挙げなかったことが救いだったよ。それからニヶ月で離婚だからね」
「……いろいろって?」
「たとえば食事とか。俺は出来れば家で食べたいけど、彼女は外食とかデリバリーが好きでね。別に悪いことではないけど、俺は時々外食をして贅沢を味わうっていう方が好きなんだ。だからホテルを利用してもらうお客様にも、思いっきり贅沢を満喫してほしいって思ってる」
やっぱり価値観の違いなのかしら……。彼の話を聞きながら、真梨子は自分と被っているように感じる。
「俺としては夫婦生活もなかったし、顔見知りの人と籍を入れて抜いただけくらいにしか思ってないかな。親が勝手に進めた結果の離婚だから、父親ももう何も口出ししなくなったから助かってるけど」
譲の表情からは、結婚が尾を引いているようには見えなかった。
「晴れて俺は独身に返り咲き。自由万歳」
独身であることを自信を持って"自由"と言い切れる譲が、真梨子は少し羨ましかった。