貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
話題を変えようとした真梨子は、テーブルの上にはまたカクテルグラスが置かれていることに気付く。
「あら、今日のカクテルはモヒートなのね。結構好きよ。また何か意味があるの?」
「もちろん」
「どんな?」
「『心の渇きを癒やして』」
真梨子はドキッとする。
「……うん、今の私にピッタリかもしれないわね。今まで家に帰ってもずっと一人だったでしょ? だからあなたがこうして毎日会いにきてくれるから、不思議と寂しくないの。ありがとう」
「お役に立てているなら光栄だ。俺も真梨子と再会出来て嬉しいんだ。毎日お喋りに付き合ってくれてありがとう」
この『ありがとう』は、ちゃんと私に向けられたものだとわかる。それがこんなにも嬉しい。
真梨子は二つのグラスを手に取ると、一つを譲に手渡す。そして彼の隣に座ると、その胸に寄りかかった。
「真梨子?」
「ちょっとだけこうさせて……」
「……いくらでもどうぞ」
譲の手が優しく真梨子を抱き寄せる。
「……今度の金曜日に夫と話し合いをしてくるわ……」
「……そうか……」
彼はそれ以上何も言わなかった。ただ黙って真梨子の背中を撫でる。譲の香りをそばで感じることで、心の渇きが満たされていくよう。
それと同時に、体の奥底で、女の私が疼き始めているのも事実だった。