貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
* * * *

 仕事を終えた真梨子は、たくさんのノンアルコール飲料とケーキの箱を持って、あるマンションを訪れていた。

 エレベーターに乗って五階まで上がり、502号室のドアの前に立つとスマホを取り出すと、メッセージを送る。

『遅くにごめんなさい。今ドアの前に着きました』

 送信してすぐに、玄関へ駆け寄る足音がしてドアが開いた。中から髪を一つにまとめ、部屋着のままの茜が疲れた笑顔で迎えてくれた。

「こんな時間にごめんなさい」
「こっちこそ、こんな時間に家に来てもらっちゃってごめんね。子供が寝てるから、あまり大声は出せないんだけど」

 この家に来るのは、茜が結婚した時以来だから、五年ぶりになる。何度か外で会ってはいたが、茜が三年前に長男、半年前に長女を出産してからは会うのが辛くなってしまった。

 真梨子は部屋を見渡して驚く。あの頃はモダンな雰囲気だった部屋が、今は子どものおもちゃに溢れ、床はウレタンのマットが敷かれていた。

 子どもがいると、こんなにも雰囲気が変わるのね……。昔はおしゃれに手を抜かなかった茜が、今はノーメイクでも気にしていないようだった。
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