貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
* * * *
譲はあの日から毎日真梨子の部屋を訪れていた。そしてカクテルを飲む間だけ話をして帰っていく。
本当にただの友達ね。この距離感がちょうどいいと思っていたのに……日に日に彼の存在が大きくなる。
きっと優しさに飢えていたからよ。晃からは与えられなかったものを、譲はいとも簡単に与えてくれた。見せかけじゃない温かさで私を包んでくれるの。
どうしよう……こんなにも譲が愛しい。でも今更彼のそばにいたいなんて言えない。
それに明日の話し合いをきちんと終わらせてからじゃないと次には進めない。
その時、部屋の呼び鈴が鳴り響く。覗き穴から譲の姿を確認すると、真梨子はドアを開けた。
「遅くに悪いね。ちょっと仕事が立て込んじゃってさ」
「忙しかったら来なくてもいいのに……」
「そういうわけにはいかない。何しろ明日は大事な日だろ? ちゃんと真梨子を励まさないと」
そのために来てくれたの? 真梨子は居ても立っても居られず、譲に抱きついた。
「あなたって……どうして昔からそうなのかしら……」
「さぁ、一体何のことかな?」
譲は笑いながらソファに座ると、カクテルグラスの載ったトレーをテーブルに置く。ただ飲む前に、真梨子には譲にお願いしなければならないことがあった。
クローゼットの中にしまったカバンから茶封筒を取り出すと、それとボールペンを持って彼の隣に座る。
「あなたにお願いがあるの」
「なんだい?」
そして封筒の中から離婚届を取り出すと、譲の前に置いた。彼は驚いたように目を見張る。
「あなたに証人になってほしいの……。一人は友達にお願いしたけど、他に頼れる人がいなくて……あなたさえ良ければなんだけど……」
「もちろん書くよ」
譲は真梨子の言葉を待たずに、証人欄に記入を始める。意外にもスーツの胸ポケットから印鑑を取り出した。
「……いつも持ってるの?」
「あぁ、突然必要になる時があるから一応ね。よし、これでいいかな?」
譲から受け取った用紙を眺める。結婚生活の終わりが見えてきた。これに晃のサインと印をもらって、区役所に提出すれば全てがリセットされる。
紙切れ一枚。こんなに長かった結婚生活なのに、あっさりと終わってしまうのね……。
「ありがとう」
そして再び茶封筒に戻し、カバンの中にしまった。
譲はあの日から毎日真梨子の部屋を訪れていた。そしてカクテルを飲む間だけ話をして帰っていく。
本当にただの友達ね。この距離感がちょうどいいと思っていたのに……日に日に彼の存在が大きくなる。
きっと優しさに飢えていたからよ。晃からは与えられなかったものを、譲はいとも簡単に与えてくれた。見せかけじゃない温かさで私を包んでくれるの。
どうしよう……こんなにも譲が愛しい。でも今更彼のそばにいたいなんて言えない。
それに明日の話し合いをきちんと終わらせてからじゃないと次には進めない。
その時、部屋の呼び鈴が鳴り響く。覗き穴から譲の姿を確認すると、真梨子はドアを開けた。
「遅くに悪いね。ちょっと仕事が立て込んじゃってさ」
「忙しかったら来なくてもいいのに……」
「そういうわけにはいかない。何しろ明日は大事な日だろ? ちゃんと真梨子を励まさないと」
そのために来てくれたの? 真梨子は居ても立っても居られず、譲に抱きついた。
「あなたって……どうして昔からそうなのかしら……」
「さぁ、一体何のことかな?」
譲は笑いながらソファに座ると、カクテルグラスの載ったトレーをテーブルに置く。ただ飲む前に、真梨子には譲にお願いしなければならないことがあった。
クローゼットの中にしまったカバンから茶封筒を取り出すと、それとボールペンを持って彼の隣に座る。
「あなたにお願いがあるの」
「なんだい?」
そして封筒の中から離婚届を取り出すと、譲の前に置いた。彼は驚いたように目を見張る。
「あなたに証人になってほしいの……。一人は友達にお願いしたけど、他に頼れる人がいなくて……あなたさえ良ければなんだけど……」
「もちろん書くよ」
譲は真梨子の言葉を待たずに、証人欄に記入を始める。意外にもスーツの胸ポケットから印鑑を取り出した。
「……いつも持ってるの?」
「あぁ、突然必要になる時があるから一応ね。よし、これでいいかな?」
譲から受け取った用紙を眺める。結婚生活の終わりが見えてきた。これに晃のサインと印をもらって、区役所に提出すれば全てがリセットされる。
紙切れ一枚。こんなに長かった結婚生活なのに、あっさりと終わってしまうのね……。
「ありがとう」
そして再び茶封筒に戻し、カバンの中にしまった。