貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 再び譲の隣に腰を下ろすと、今日のカクテルを眺める。

「今日はどんなカクテルなの?」
「こっちがマウント・フジ、こっちがロブ・ロイ」
「富士山? 確かに雪山っぽい白ね。意味は?」

 真梨子が聞くと、いつもなら軽く教えてくれる譲が急に黙り込む。不思議に思って彼の方を向くと、譲は真梨子を真剣な瞳でじっと見つめていた。

「今日はね、二つ合わせて一つの意味になる」

 すると譲はマウント・フジのグラスに触れる。

「マウント・フジの意味は『もしも願いが叶うなら』、そしてロブ・ロイの意味は……『あなたの心を奪いたい』」

 真梨子は胸が熱くなった。

『もしも願いが叶うなら、あなたの心を奪いたい』

 それは私に向けられているの? 戸惑いつつも、喜びを感じている自分がいる。十二年前に心にしまい込んだこの気持ちが、ようやく陽の光を浴びたような感覚になった。

 譲は真梨子の髪を撫でながら微笑む。

「……俺は真梨子が全てを終えるまでは何もしないよ。ただ終わったその時は……」

 真梨子は譲の手を引き寄せ、自分の頬に添える。大きくて温かい手。この一週間、この手のおかげで救われた。

 すると譲が真梨子を抱き寄せ、耳に舌を這わせる。思わず声が漏れた真梨子の耳元で、譲がそっと囁いた。

「……今日もマッサージしていい?」

 真梨子の頬が真っ赤に染まる。彼の言うマッサージとは、真梨子を抗えない世界に導くこと。

 この間は強引だった。今回は真梨子の了承を得ようとしている。それだけで胸がキュンとした。

 求めているものが譲なのか、快楽なのか……どちらにしてももう無理だわ。だって両方欲しくてたまらない。

 真梨子は譲の首に腕を回し、小さく頷いた。

 譲は真梨子の首筋にキスを降らせながら、真梨子のパジャマとショーツを脱がせる。足を開かせると、彼の指は真梨子の敏感な部分に触れ、動くたびに彼女の呼吸は荒くなっていく。

 譲はどんな顔をしているのかしら……見えないからわからない。

 彼の指を体の中に感じ、真梨子は体を弓形にしそのまま果てた。しかしそれだけでは終わらず、譲の指は何度も攻め立てる。そのたびに真梨子は襲いかかる快楽の波に抗えず、何度も何度も体を震わせ意識を失いかける。

 その時だった。譲が真梨子の両足の間に顔を埋めたのだ。驚いた真梨子は、敏感な部分を動き回る譲の舌の動きに、正気を保っていられないほどの声を上げた。

「譲……!」

 そうして真梨子は熱に浮かされ、そのまま意識を失った。
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