西園寺先生は紡木さんに触れたい

「先生、頭痛いんですか…?」


見かねた紡木がそう心配そうに声をかけると、西園寺は我に返って「いや、全然!何でもない!」と慌てて返した。


そして助手席のドアを開けると、紡木に座るように促した。


西園寺が勘違いをしていることに気づくはずもない紡木は、「ありがとうございます。」と緊張で上擦った声でお礼を言うと彼に促されるがまま助手席に座った。



「じゃあ、出すね。」


運転席に乗り込んだ西園寺がそう紡木に告げると、彼女は「はい。」と返した。

その顔は緊張のあまり固まっている。


こんなときどんな話をすればいいのか分からず、紡木は無言でジッと外を見ていた。


西園寺は西園寺で、自分の気持ちの整理ができておらず、思うように言葉が出てこなかった。



デート、楽しんでね。


そんなこと心にも思ってないのに言えるほどまだ大人ではなくて。


今日は一段と可愛いね。


そんなことを言って紡木を困らせてしまうのは嫌で。


かと言って世間話できるほどの余裕すらない。


西園寺はただ事故をしないように走らせることだけに意識を集中した。
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