西園寺先生は紡木さんに触れたい

あまりにも自分が惨めで情けなくてため息をつくと、保健室の扉が開いた。


西園寺は反射的に扉の方を向くと、そこの立っていった彼女─紡木と目が合った。


洗面器を片手に呆然としている西園寺を、紡木は事態が飲み込めずに目を丸くして彼を見つめた。


そんな彼女の視線に、西園寺は再び洗面器の中へと顔を埋め情けない声と一緒に胃の内容物を吐き出した。


ああ、こんなところ見られるなんてもう終わりだ─


そう思って目に涙を溜める西園寺に、紡木はすぐさま駆け寄って首にかけていたタオルを手のひらに巻くと彼の背中を優しく撫でた。


突然背中に伝わったタオルの柔らかな感触に西園寺は驚きつつも目を閉じて身を委ねた。



「ごめん、ありがとう…。」



暫くして洗面器から顔を上げた西園寺は、床を見つめたままそう紡木に感謝した。



紡木は「いえ。」と短く答えると持っていたペットボトルの水を西園寺の前に差し出した。


「これ、まだ開けてないんで、飲んでください。」


「いや、そんな、大丈夫だから…。」


「吐いた後は脱水になりやすいので、とりあえず飲んでください。きっと気分も落ち着きます。」


そう言って紡木は半ば強引にペットボトルを押し付けるとスッと立ち上がってドアまで歩き出した。

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