西園寺先生は紡木さんに触れたい

「あ。」


かと思えばそう短く呟いてから西園寺の方へ向き直った。


「先生は一等賞ですよ。」


「え…?」


思わず顔を上げると彼女は大真面目な顔をしていた。


「…や、でも、あんな盛大に転んで、今だってこんな膝だし…。」


「先生が一番一生懸命に走ってましたよ。だから一等賞。

金メダルあげるからあんな心無いこと言うような人間の言葉で落ち込まないでください。」


廊下の方をわざとらしく睨むと紡木は「じゃあ。」と告げて、今度こそ西園寺に背を向けて保健室を後にした。


一等賞、か。


あの日、僕はその言葉にどれだけ救われたか。


僕が紡木さんのことを好きになった一番の理由。


こんなに素敵な言葉をくれたのに、名字すら覚えられてないのにはずっこけたけど。


それが逆に心地よかった。






< 364 / 367 >

この作品をシェア

pagetop