父   娘   母。
16の頃、実母と暮らす機会があった。
彼女は度々私に言った。 「本当に彼に似てる」と。
彼とは彼女が別れた夫、つまり私の実父の事。
彼らが離婚した際、私は養子に出されたので両親の顔を知らずに育ったが、一枚だけ写真を持っていた。 初々しい二人の結婚式の写真。それを時折私はこっそり見ていた。けれど、
「しかしまあ、ホクロの位置までそっくりよ」等と言われても、自分の父親が一体どんな人なのか全く想像出来なかった。
私は父に会いたいと思うようになった。そしてそれを叶えた。たしか、19の冬だったと思う。
突然の娘からの電話に彼は驚きながらも、「大きくなったみたいだなあ」と低く言い、「今から直ぐ行く。明るい所で待ってなさい」と電話をきった。
周りからは、『怖い人よ。会わないほうがいい』などと聞かされていたけれど、暗闇の中に待つ私の胸を震わすのは期待と緊張だけだった。
暫くして、到着した白い車が遠くに見えた。が、車から降りた彼はなかなかその場から動こうとしなかった。やがて、一旦胸に手をあて『ふぅっ‥』と深く息を吐き、まるで意を決したかのようにこちらに向かって歩き出した彼の姿が印象的で‥その場面が、何故だか今でも忘れられない。
結局、ほんの10分程、ぎこちない沈黙が続いただけだったけれど、私は彼に手紙を渡す事が出来た。

─いつか、お父さん、って呼んでみたいです。─

という一文は、もう二度と会う事はない父への、精一杯の意地悪な反抗だったのかも知れない。

そして帰り際、
街灯に照らし出された私の横顔を見て彼はこう言った。

「本当に、彼女に似てる」と。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

時効。

総文字数/771

その他1ページ

表紙を見る
宇宙的想像力。

総文字数/610

恋愛(その他)1ページ

表紙を見る
びわの実。

総文字数/771

恋愛(その他)2ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop