雪の国の恋、とけない魔法
初級のなだらかなコースでゆっくり見てもらっていたら、横を皆が通り過ぎ、黒のウエアがスシャッと近くに止まった
コーチが愛想良く、
「お仲間ですかぁ? 」
とにこやかに聞くから、
「はい」
と応える。
他の3人はもう少し離れた脇のところでチラチラとこちらを見るが、目が馬鹿にしているみたいで嫌だった。
「もうすぐ終わり? 」
と上月さんがゴーグルをあげて、声をかけてきた。
「ここを降りたら、ちょうど時間かなぁ」
とコーチが腕の時計を見て言った。
「ふーん」
と上月さんが言って、
「じゃ、あとで」
とゴーグルを下げると、たちまちシャーーーと鮮やかに綺麗なフォームで滑り降りていく。
後ろ姿があっという間に遠くなり、それを追う3人もきれいに滑り降りて行く⋯⋯ 。
「お上手ですねー、お連れの方、何かのお仲間ですか? 」
虚しくなった気持ちを押して答えた。
「あ、会社の人で」
「会社で来られたんですねー、何人ぐらいで? 」
「10人です」
「この後皆さんと滑れたらいいですね。
はい、じゃあ、いままでの注意を気に留めて、残り、頑張りましょう」
再開直後「あ、ほら、ちがいますよ」と途端に注意される。
集中力をなくしていた。
いままで出来たことさえおかしくなった。
こんなんじゃ午後も1人で自主練かな。
上月さんとなんて一緒に過ごせるわけない。
もうどこにも姿は見えない。