雪の国の恋、とけない魔法
✴︎雪の中、彼が来てくれた✴︎
いつかはパトロールに助けられるだろうけど、行方不明の救助って⋯⋯ そんな大事になってしまったらどうしよう。
携帯をポケットの中から苦労して出してみた。
こんなことですら手間取る。
慣れない手袋に、あ、ゴーグルも帽子も邪魔だけど、身につけているのが1番邪魔じゃなくて、携帯を絶対に落とさないように、外した手袋はここに入れて、とにかく美紀に連絡して⋯⋯ も、どうにもならない⋯⋯ ?
呆然といろいろ考えていたら、今考えていた美紀から着信、携帯が鳴った。
[花梨!どこ? アプリで場所見たけどなんか遠いよ? ]
「うーん、わかんないけど、オレンジのリフトに乗ってしまって、降りれない⋯⋯ 」
[もしもし]
急に電話口からはっきりした男の人の声がした。
上月さんの声。
[オレンジに乗ったの? ]
「あ⋯⋯ はい」
[で? ]
「なだらかな坂を降りたところの平らなあたりに⋯⋯ 」
[すぐ行く。じっとしてて]
「えっ? 」
電話は切れずに、携帯を借りるとか、美紀の声ではいとか、少し間があって、
[あー、オレンジリフト乗るから]
「⋯⋯ はい⋯⋯ 」
来てくれるんだ、上月さん、ここまで。
安堵が広がり、思わず涙がこぼれた。
[乗ったよ、こんぐらいの天気、どうってことないからね]
とか話してくれる。
来てくれる、ホッとした気持ちと、ちくちく迷惑かけてる自己嫌悪と、ダメな自分。
こんな事になっているのに、優しく話す香月さんは、こちらに向かって来てくれていて、心強くて、彼と電話してること自体が何だか不思議で、雪が積もって、またたくまに板が埋もれるぐらい、足先を揺すって、板や靴の重みで自由にならない足を感じて、変に滑らないように、昨日習った通りに板の内側をしっかり雪面にあてて、ただ立っている。