雪の国の恋、とけない魔法
「最初の日」
花梨の頭に頬をつけて、彼が言う声は花梨の頭の上からくぐもって聞こえた。
「インストラクターにスキーならってただろ? 」
講習うけたことだよね。
「途中で会ったとき」
「⋯⋯ 」
「嫌だった」
「えっ? 」
「あんなささいな事でも、我慢できないぐらい嫌なんだ。全部、ハジメテのこと、何でもオレとやれよ」
上月さんの手に力が入って引き寄せられた。
こめかみに、彼の頬と唇を当てられた。
じっと抱き寄せられたまま、彼の熱い息を感じた。
「オレ、好きなんだ。花梨の事」
真剣な心からの言葉は、見えないのに重みをもって、心にたまって、じんわりと花梨をつつんでいく。
「置き去りにされて、それでも出来ない自分が嫌だと言った花梨が好きだ。前からずっと気になっていたんだ」
上月さんは動かなかった。
自分の気持ちを言葉にして伝えようとしていた。
「いつも話しかけたら困るみたいだし、いったい何が花梨から好かれる基準なのかなとか、悩んでた」
彼の言葉が染み入る、それこそ魔法の言葉みたい。
彼の口から思いが紡がれる。
静かな雪の夜に上月さんの声だけがする。
「本気で言ってるのに、見事にスルーされるから今回のスキー旅行で頑張ろうと思ってた 」
ずっと上月さんから呆れられてるんだろうと思い込んで、でもそう感じていたのは自分自身の自信のなさからだ。
「まるで雪みたいだよ。ふわふわと柔らかそうで楽に手が届きそうなのに、掴もうと思うといなくなる。でもその後に残るんだ。目の中にも心にも、花梨が残ってしまうんだ、って、何で泣いてんの⁈ 」
「上月さんが、そんなふうに思う相手がいるなんて⋯⋯ 感動しちゃって、なんて素敵なんだろうって⋯⋯ 」
「いや。花梨の事だから。分かってる? 」
と上月さんが、ちょっと呆れたみたいな口調で、それからじっと目を見てきた。
信じられない、上月さんがそんなこと考えてて、今、目の前に彼の整った顔⋯⋯ 。
私?
本当に私なの?