雪の国の恋、とけない魔法


上月さんとは、いつもいつも、なんだかイマイチな瞬間ばかりになる。

ぼんやり、ただ窓の外を見ていたら、
『何見てるの? 』
って聞かれたのが最初だった。
びっくりして、しかも全く何も見ていなかったから、あわてちゃって、
『何も見てないですよ? ではっ、』って答えて逃げた。

それからも、たまたま1人で気合を入れるために、
『よし! がんばろ! 』
って呟いていたら、
『何を頑張るの? 』
と後ろから声をかけられて、飛び上がった。『お仕事頑張ります、』
ってやはり逃げた。

帰りに偶然会った時は、2人なのに避けるみたいに道の端に寄りすぎて、段差に転んで恥ずかしかったし、時間がなくて変なお弁当を持ってきている時に、
『お弁当なの? 』
と聞かれて途中なのに蓋を閉めて、
『あらっ、用事があった、』
なんて逃げるはめにおちいったり⋯⋯ 。

いつもいつも、恥ずかしい。
逃げてしまってばかり。

上月さんは普通に話しかけてるだけなんだろう。

上月蓮斗さん。
手の届かない、違う世界にいる人ってかんじの人だ。

いつも周りに仲間がいて、仕事も遊びも何でも出来る人。
顔で判断するもんじゃないって常々、思っているけど、やっぱり顔に中身は出るんじゃない? って、そう⋯⋯ イケメンなんだ。
男らしいイケメン。
艶やかな黒髪に、キリリとした目鼻立ち、スラリと高身長の体型は、意外とがっしりしている。
いい匂いがしてて、いや、そんなに何回も近くに行ったことはないけど、もう見るからにそんなかんじ。

花梨はずっと女子校育ちだ。
カレシにはあこがれる。
でも実際に会社に入って男性がいて、普通に話したりして、だからってどんな人なのか、全然分からないのだ。
上月さんに何回か話しかけられてるけど、その偶然に、上月さんがどう花梨を判断しているのか分からない。

なぜ変な時ばかり話してくるのか。
彼の目にうつっているだろう自分の姿は、自信がなくて恥ずかしくてイマイチだ。

それに上月さんが、容姿通りのいい人なのか。
相手のどこをどう見て、騙されるとか、本当いい人とか、見極め方が分からない。

男性に何か褒められると裏があるんじゃ、と警戒してしまうし、残念な面が見えると男の人でもそんな事するんだ、とか思うし。
人として見れてないのかな。

女子校の弊害。


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