僕らはきっと
柔らかな風が髪をかすめる。
この時期はどこか皆、浮き足立っているように思えてならない。
新生活をスタートする者。新しい環境に身を置く者。

17年目の春。僕は高校2年生になった。

学校に着くと、掲示板の前に人だかりがある。もうクラス分けが発表されているようだ。幼い頃から病気がちで入退院を繰り返して学校にあまり行けていなかったせいか、新学期独特の、和気藹々とした雰囲気には慣れない。遠目でクラスを確認した。1組。教室は2階の1番左端。保健室から近い。何があっても安心だ。とはいえ、なるべく保健室の世話にならないようにしたいが。昨年は4組で保健室まで遠かったため、急に発作が起きた時は辛かった。学校側の配慮だろうか。
教室へ行くと、同じクラスになったことを喜ぶ同級生の会話で溢れていた。顔見知りがいることがそんなに嬉しいことなのかと不思議に思う。席を確認し、着席して周りを見渡す。昨日、定期検診の時に主治医の青木先生から言われた言葉が頭に浮かんだ。
「本当に、良かった。」
凄く嬉しそうに、そしてしみじみとした声でそう言った。幼い頃から僕の主治医であり、そして父の古くからの友人である青木先生は、いつも僕を気にかけてくれた。発作に苦しむ時も、高熱で意識が混濁する時も、たとえ出勤日でなくともすぐに駆けつけてくれた。青木先生には本当に感謝している。ただ、病気が治ったわけではない。今は寛解状態といって落ち着いているだけだ。またいつ悪化するか分からない。1日何種類もの薬を飲んで、食事制限と運動制限を行う必要がある。だが、病院でずっと寝たきりだった時間を経験してる僕にとって、自由に行動できるだけで天国のようなものだ。中学校までろくに通えなかったからなお、高校生活をまともに送れていることに僕自身が1番驚いている。少しの我慢くらい、容易い御用だ。
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