僕らはきっと
 学校からの帰り道、僕はいつもスーパーに寄る。その日の夕食の献立を考えるためだ。母を早くに亡くした僕は、父との二人暮らしが長い。といっても、ほとんど入院生活だったから、父は一人暮らしといっても過言ではない状態だった。名前を聞くと大体の人間が「聞いたことがある。」という会社に長年勤めてきた父は、社内でもそこそこ上の立場らしい。それでも、決して威張らずに「好きなことをやっているだけだから。」と言う父が、僕は好きだ。面と向かっては照れて言えないけれど。幼い頃から病気がちで迷惑をかけてしまったせめてものお詫びにと、僕は退院して春休み頃からせっせと料理を覚えてきた。腕はまだまだだが、ある程度のものはレシピを見ずとも作れるようになった。大きな成長である。
 15分後、カレーの材料を抱えてスーパーを出た。牛肉が安くてラッキーだった。関東ではカレーに豚肉を入れるらしいが、僕の家では牛肉を入れる。カレーは牛肉でしょ、という関西育ちの母さん直伝の言葉でもある。あと5分で家に着く、といった時にズキっと胸に痛みが走った。思わず立ち止まる。深呼吸をしながら、自分に言い聞かせる。大丈夫、ダイジョウブ、だいじょうぶ。少し経つと、痛みが和らいだ。だが、まだ息がきれる。どうにか重い体をを引きずって、家に着いた。そのままキッチンに直行してコップに水を入れて薬を飲む。はぁ、と小さい溜息が出た。
 20時頃になると父さんが帰宅した。
「今日はカレーか」
嬉しそうに鍋を覗き込む。
「体調はどうだ?」
これはいつものことだ。父さんは帰宅すると、僕の体調を訊ねる。
「何もないよ、いつも通り」
心配を掛けたくなくて、夕方のことは伏せておいた。実際、今は落ち着いているし、本当のことを言うと心配性な父は今から病院に行こう、と言い出しかねない。
「そうか、良かった」と言って、父さんは着替えに行った。
カレーを温め直しながら、僕はふと考えた。
もし、自分が病気じゃなかったら...?
何も変わらないよ、とカレーがグツグツと返事をした気がした。
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