僕らはきっと
目を覚ますと、もう昼前だった。すっかり眠ってしまっていたらしい。目が覚めてからも、僕は夢で見た、あの言葉の意味を考えていた。寺坂のあの言葉と涙は只事ではなかった。どうしてあいつは謝ってたんだろう。そしてあの花の意味は・・・。看護師さんが点滴を外してくれている間もずっと考えていた。
青木医師の、「政樹に連絡する」という申し出をやんわりと断り、急いで病院を出た。写真部部長の赤木さんからは、海辺公園に13時に集合と言われている。一度家に帰ることが出来ない場合に備えて、カメラを持ってきて良かった、と自分に関心する。心臓に負担はかけられないので走ることはできないが、小走りで集合場所に向かった。探していた集団はすぐに見つかった。
「一ノ瀬くん、こっち!」
僕を呼ぶ赤木さんが僕を手招きする。何やら大きい機材を持っている。
「あの、これって・・・?」
「ストロボ!明るくしてくれるんだ。」
カメラには疎いため、色々あるんだな、としか思いようがない。
「あ、寺坂くん。」
春川が来た。いつもの制服姿でないからか、大人びて見える。シャツにジーンズというラフな格好だが、端正な顔立ちのせいか目立って見える。近くにいた女子高生らしき集団が先ほどからちらちらとこちらを見ているのも、気のせいではないだろう。写真部には失礼だが、サッカー部やバスケ部といった花形の部活動の方がよっぽどしっくりくる。
「こんにちは、今日は何を撮るんですか?」
「自分が撮りたいもの。お題はなし。」
赤木さんが意気揚々と答える。
「なるほどです!じゃあ1時間後、またこの場所で集合ですね。いい写真、撮ってきますから期待してて下さい!」
春川はやる気のようである。どこからこの自信が来るのかは謎であるが。
「よし、行こう!」
そう言って、寺坂が僕の腕を掴む。
「え、ちょっと、」
抵抗できないまま、ぐいぐいと引っ張られる。
数分後、僕は海が見える高台に立たされていた。
「はい、ちょっと目線外して、そうそう!」
そうレンズをのぞき込みながら声をかけるのは寺坂である。パシャパシャとシャッター音を響かせながら、ポーズはこうで、目線はこっちで、など細かく指示を出してくる。最初は自分が撮影される側と分かって大反対したのだが、どうしても人物写真を撮るのに付き合って欲しい、と懇願する彼の頼みを断れなかった。もっとも、寺坂なら近くの人に声をかけて撮影許可を取ることくらい容易くやってのけそうであるが、なぜか僕にこだわった。おかげで公園で撮影をしている人間など僕らぐらいで、注目の的である。
「よーし!」
30分ほど撮影したのち、やっと満足したようでとりあえず休憩をしよう、となった。
「飲み物買ってくるわ、ちょっと待ってて。」
いいよ、飲めるもの限られているから、と僕が断る前に走って行ってしまった。僕は糖分制限をしているため、ほとんどのジュースを飲むことが出来ない。どうして飲まないのと聞かれたら、あとで飲むとかなんとかいってやりすごそう、と考えていたら春川が戻ってきた。
「はい。」
意外にも彼が渡してきたのは普通のお茶だった。これなら飲むことができる。少し拍子抜けしながら、礼を言って受け取る。
お茶を飲む寺坂の横顔を見ながら、なぜこんなにも写真にこだわるのだろう、と不思議に思った。そういえば、初めて写真部に見学に行った際、ずっと同じ写真を見ていたような気がする。
「写真、好きなの?」
ふと聞いてみた。一瞬きょとん、とした顔をした寺坂は少しだけ考えて、こう言った。
「写真ってさ、ずっと残るだろ?そこにいた記憶が残せるから。」
そう言った彼の横顔が寂しげに見えたのは気のせいだったのだろうか。
次の日、学校に行くと寺坂が嬉々として僕の席にやってきた。先日、撮影したデータが仕上がったとのことだった。どうやら、撮影した写真を現像しただけでなく、レタッチまでしたそうだ。一段と青空が目立った自分が写った写真を見ながら、恥ずかしさと嬉しい気持ちが入り混じっていた。写真の中の自分は、とても病気なんて思えないほど健康そうに見える。どこにでもいる、普通の高校生である。でも、現実は・・・。その後に続く言葉を飲み込んだ。
「どう?上手く撮れてるだろ?」
寺坂はそう言ってニコニコと笑った。
青木医師の、「政樹に連絡する」という申し出をやんわりと断り、急いで病院を出た。写真部部長の赤木さんからは、海辺公園に13時に集合と言われている。一度家に帰ることが出来ない場合に備えて、カメラを持ってきて良かった、と自分に関心する。心臓に負担はかけられないので走ることはできないが、小走りで集合場所に向かった。探していた集団はすぐに見つかった。
「一ノ瀬くん、こっち!」
僕を呼ぶ赤木さんが僕を手招きする。何やら大きい機材を持っている。
「あの、これって・・・?」
「ストロボ!明るくしてくれるんだ。」
カメラには疎いため、色々あるんだな、としか思いようがない。
「あ、寺坂くん。」
春川が来た。いつもの制服姿でないからか、大人びて見える。シャツにジーンズというラフな格好だが、端正な顔立ちのせいか目立って見える。近くにいた女子高生らしき集団が先ほどからちらちらとこちらを見ているのも、気のせいではないだろう。写真部には失礼だが、サッカー部やバスケ部といった花形の部活動の方がよっぽどしっくりくる。
「こんにちは、今日は何を撮るんですか?」
「自分が撮りたいもの。お題はなし。」
赤木さんが意気揚々と答える。
「なるほどです!じゃあ1時間後、またこの場所で集合ですね。いい写真、撮ってきますから期待してて下さい!」
春川はやる気のようである。どこからこの自信が来るのかは謎であるが。
「よし、行こう!」
そう言って、寺坂が僕の腕を掴む。
「え、ちょっと、」
抵抗できないまま、ぐいぐいと引っ張られる。
数分後、僕は海が見える高台に立たされていた。
「はい、ちょっと目線外して、そうそう!」
そうレンズをのぞき込みながら声をかけるのは寺坂である。パシャパシャとシャッター音を響かせながら、ポーズはこうで、目線はこっちで、など細かく指示を出してくる。最初は自分が撮影される側と分かって大反対したのだが、どうしても人物写真を撮るのに付き合って欲しい、と懇願する彼の頼みを断れなかった。もっとも、寺坂なら近くの人に声をかけて撮影許可を取ることくらい容易くやってのけそうであるが、なぜか僕にこだわった。おかげで公園で撮影をしている人間など僕らぐらいで、注目の的である。
「よーし!」
30分ほど撮影したのち、やっと満足したようでとりあえず休憩をしよう、となった。
「飲み物買ってくるわ、ちょっと待ってて。」
いいよ、飲めるもの限られているから、と僕が断る前に走って行ってしまった。僕は糖分制限をしているため、ほとんどのジュースを飲むことが出来ない。どうして飲まないのと聞かれたら、あとで飲むとかなんとかいってやりすごそう、と考えていたら春川が戻ってきた。
「はい。」
意外にも彼が渡してきたのは普通のお茶だった。これなら飲むことができる。少し拍子抜けしながら、礼を言って受け取る。
お茶を飲む寺坂の横顔を見ながら、なぜこんなにも写真にこだわるのだろう、と不思議に思った。そういえば、初めて写真部に見学に行った際、ずっと同じ写真を見ていたような気がする。
「写真、好きなの?」
ふと聞いてみた。一瞬きょとん、とした顔をした寺坂は少しだけ考えて、こう言った。
「写真ってさ、ずっと残るだろ?そこにいた記憶が残せるから。」
そう言った彼の横顔が寂しげに見えたのは気のせいだったのだろうか。
次の日、学校に行くと寺坂が嬉々として僕の席にやってきた。先日、撮影したデータが仕上がったとのことだった。どうやら、撮影した写真を現像しただけでなく、レタッチまでしたそうだ。一段と青空が目立った自分が写った写真を見ながら、恥ずかしさと嬉しい気持ちが入り混じっていた。写真の中の自分は、とても病気なんて思えないほど健康そうに見える。どこにでもいる、普通の高校生である。でも、現実は・・・。その後に続く言葉を飲み込んだ。
「どう?上手く撮れてるだろ?」
寺坂はそう言ってニコニコと笑った。