先生、恋愛を教えて。
「そう言えば、高校生の葉月ちゃん。うちの会の演奏を聞いてお琴を習いたいと思ったそうよ。しかもお父さんの仕事の都合で引っ越す予定だったのに、うちでやっていきたいからって結局お母さんと2人暮らしをしているそうね」
「ほかのところじゃなくて、うちで弾きたいだなんてね。先生の音聞いちゃうとね。ほかのところでは習えないわよね」
お琴が習えるなら、どの教室でもいいというわけではないのだ。
教えてくれる先生によってだいぶ変わってくる。
わたしは高校生の時に琉生先輩に出会えたことが、人生で一番の好機だと思う。
この音から離れられなくて、わざわざ県外から通いに来る人もいるくらいなのだ。
それに、通い続けるためにずっとこの地にとどまり続けている人もいると言う。
それくらい、先輩の出す音には魅力がある。
「美菜ちゃんだってそうでしょ?」
「そうですね。琉生先輩……先生の音を聞いてなかったら、お琴やっていなかったと思います」
「美菜、おだてても何も出ないぞ」
照れ隠しなのか、ふっと笑った先輩と一瞬だけ視線が合った。
きっと先輩と2人だったら、わたしも恥ずかしくて言えていなかったと思う。
勢いで言ってしまったところもあって、お互い気恥ずかしくなったのか、意味もなく着物の裾をそろえた。