先生、恋愛を教えて。
「溝口さん、そのお琴この前新しく買ったんだって?」
演奏会前に行われるリハーサルで、出演者たちは各自自分たちの楽器を持ってやってくる。
そこでは時折、いいお琴、高いお琴を買った人が注目を浴びることがあるのだ。
「そうなのよ。先生に聞いたら、正目のいいお琴があるって言ってたから、主人に相談して買っちゃったわ」
「いいわねえ。とてもいい音が出そうね」
「そうなのよ。初めて弾いたとき、前のお琴と音色が違って驚いちゃったわ」
値段が高いからと言って、いい音色が出るとは限らない。
音色は演奏者によって違うものだし、そこまで高価でなくてもはっきりとしたきれいな音は出る。
そう思っていたけれど、それはただの意地でしかなかった。
きっと素人でも聞き比べたらわかる。
そこそこの値が張るお琴は、やっぱり音色が違うのだ。
艶があって、その音だけで引き込まれる感じがする。
「美菜、この前言ってた中古のお琴手に入れられそうだぞ」
わたしは家に自分のお琴を持っている。
でも、それは新しいものではなく、先輩に頼んで探してもらった中古のお琴。
決して今のお琴が気に入っていないわけではない。