先生、恋愛を教えて。
「美菜、ごめんね。出してあげたいんだけど、本当にお金ないのよ」
お母さんがわたしに謝ったのはこの時が初めてかもしれない。
「美菜、いくらいるんだ?」
「100万必要なの、今すぐ」
「100万!?どうしてまたそんなに!?」
「次の演奏会までに新しいお琴を買いたくて。どうしても100万が必要なの」
両親に何かが欲しいとはっきり伝えたのはいつぶりだろう。
もう記憶にないくらい、2人にはほとんどわがままを言っていない気がする。
「ねえ、お父さん、お母さん、何とかならないの?お姉ちゃんが何かを欲しいって言うのめったにないのに」
「さやか……お父さんもお母さんも出せるなら出してやりたいけど、今出せるのは10万もないんだ。家のローンも残ってるし」
「そんな……お姉ちゃん、わたしのアルバイト代は全部あげる。全然足しにはならないだろうけど」
「ダメよ、さやか。それは大事に取っておきなさい」
「でも……」
結局わたしが欲しいものはすぐに手に入らないだろうなと、どこかで予感していた。
妹のさやかが一番悔しがっていたかもしれない。
両親の申し訳なさそうな表情を見て、「今さらそんな表情をされても」と思ってしまったわたしは性格が悪いのだろうか。
新しいお琴を買うという夢が少し先延ばしになっただけ。
そう切り替えて、わたしは帰路についた。