先生、恋愛を教えて。
そう言えば、先輩は時々言葉を濁したり、今のように途中で黙り込んでしまうときがあった。
思い返してみれば、あれはわたしがまだ高校1年生のとき。
先輩は高校3年生で有名な音楽大学に進学を決めて、間もなく卒業してしまうというときだった。
「美菜、ちゃんと練習やってるか?」
「先輩、また来たんですか?3年生は家庭学習期間で登校しなくてもいい時期ですよね?」
まだ真冬の冷たさが抜けきれない頃だった。
本来であれば部活も引退していて、学校にも登校しなくてもいい時期だったのに。
先輩は1週間に数回部活の練習を見に来て、指導をしてくれた。
しかも必ずわたしにちょっかいを出して帰るのだ。
「せっかく練習身に来てやってるのに、なんだよ。その言い草は。美菜は本当に可愛げがないな」
「可愛げなくてもいいですー。毎日のように来るなんて、先輩よっぽど暇なんですね」
つい可愛げのないことを言ってしまったけれど、このころからわたしは先輩のことが好きだった。
高校生の先輩は今以上に女子からモテた。
同学年の女子も「筝曲部3年生の部長がかっこいい」と噂をしていたほどに。