先生、恋愛を教えて。
結局そのあと、誰もいない部室で2人だけで合奏をした。
この時が初めてだった。
先輩と2人で合奏をしたのは――
いくら簡単な曲でも、先輩の音はわたしと全然違った。
わたしの音は、ただ楽譜をなぞっているただの音なのに。
先輩の音は、心の奥に入り込んでくるような、そんな音だった。
それに「俺に彼女がいるか気にしてたのか」とでも言いたげな、先輩の小ばかにした笑い声も聞こえる気がした。
先輩とお琴で会話をしているような気がしたのは、この時が初めてだった。
「美菜」
「なんですか、先輩」
弾き終わると、先輩はお琴を壁に立てかけながら声をかけてきた。
「次、俺に彼女が出来たら美菜はすぐにわかると思うよ」
「先輩、それどういう意味ですか?」
この時の、ふっと笑った先輩の表情は今でも鮮明に覚えている。
この時の先輩はとても印象的だった。
「わからないならいーや。4月からもちょくちょく練習見に来るからな。練習サボるんじゃねーぞ」
「先輩、大学生になってもまだ来る気ですか?でも、練習は頑張りますよ。先輩とまた合奏したいですから。今度はもう少し難しい曲を一緒に合奏できるように練習しておきます!」