先生、恋愛を教えて。



昔から言葉足らずなところがあったけれど、この時ほど母の言っていることが理解できないときはなかったと思う。

訳も分からず、母が差し出した厚い封筒を受け取った。


「これは?」

「中を見てみてごらん」


言われるがまま、封筒の中身を確認すると、そこには1万円札の束が入っていたのだ。

驚いて落としそうになり、言葉を失った状態で母の顔を見た。


「これでお琴が買えるでしょ?」

「お母さん、このお金……どうしたの?」

「いいから、受け取りなさい。それを渡しに来ただけだから」

「え?だから、お母さん、このお金……」


あんなにお金に困っていたのに、突然こんな大金がふっと湧き出てくるはずがない。

このお金はいったいどこから――?


「美菜、そのお金は返さなくていいから。今まで美菜からもらったお金を返しただけだから。それでお琴を買っても、自分のお金で買ったことには変わりないからね」

「え?」

「今まで本当にごめんね」


母はそれだけ言うと、背を向けて帰っていった。

多くの疑問が解決されないまま、母がいなくなってしまって、わたしは玄関で途方に暮れていた。




< 35 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop