千早くんは、容赦が無い
 私に気を遣わせないように、そんな言い方してるんだって分かった。

 桜子もそれは察したらしくて「マジもんのイケメンだわ……」なんて、呟いているのが聞こえてきた。

 本当に、外見も中身もどうしてこんなにかっこいいのだろう。

「あ、ありがとう……」

 うまい言葉が見つからなかったけれど、私はとにかく感謝の念を述べる。

 千早くんは微笑んで「ん」って言うだけだった。

 そうこうしているうちに、船は船着き場へとたどり着く。

 船から私たち四人が降りると、係員さんが血相を変えた様子で、私たちの元へと駆け寄ってきた。

「お客様、大変申し訳ございません!」

 千早くんに向かって、深々と頭を下げる係員さん。

 勢いの良い謝罪に、千早くんはかえって恐縮してしまったみたいで「あっ、いえ、大丈夫っす」なんて言っている。

 だけど係員さんは終始申し訳なさそうにしながら、千早くんにバスタオルとブランケットを手渡してくれた。

 そして、その上。

「よろしかったら、こちらでご休憩くださいませ」

 そう言って係員さんが千早くんに渡そうとしたのは、園内にあるカフェの無料券だった。

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