千早くんは、容赦が無い
 それなら、千早くんが荒れていたのはたった三か月くらいみたいだ。

「何かきっかけでもあったの?」

 ずっと頑張っていたサッカーが、急にできなくなるなんて相当落ち込むし、なかなか割り切れることじゃないように思える。

 それなのにわりと短期間で千早くんは立ち直っていたから、何か励まされることでもあったのかなって単純に気になった。

「あー、それは亜澄が……」

「えっ、私?」

 私の名前が突然出てきて、驚いて聞き返してしまう。

 だって、私たちがまだ出会う前の去年の話をしている最中だったから。
 
 私がその中に出てくるはずはない。

 すると千早くんははっとした顔をした。

 しまった、という表情にも見えた。

 だけど千早くんはすぐにいつものように緩く微笑む。

「あ、ごめんなんでもない。間違えた。なんか、ちょっと悪いことしたらすぐに飽きちゃってさ。それだけだよ」

 はっきりと淀みなく千早くんは言う。

 本当に、私の名前が出てきたのは言い間違いだったみたいだ。

「そうだったんだね。早く立ち直ってたみたいで、よかったよ」

< 173 / 221 >

この作品をシェア

pagetop