千早くんは、容赦が無い
 私が手を振り返すと、千早くんは「おー」と言って、教室から去って行った。

「千早くん、亜澄のこと好きすぎない?」

 笑いを堪えるように、桜子は言う。

「あー……うん。そうかも」

 千早くんの連日の行動は確かに私もそう感じているけれど、はっきりと「そうなの!」って言うのはなんだか調子に乗っているような気がして、私は曖昧に答える。

 だけど、そうなんだよ。

 前々から優しかったし、好きとかかわいいとか、しょっちゅう言ってくれていた千早くんだったけれど。

 付き合ってからはますますそれが顕著な気がして。

 もちろん私だって千早くんが大好きだし、彼がそんな風にしてくれるのは嬉しい。

 ――だけど。

 それによって、ますます私が本当は「ちぇりー」じゃないんだってことが、言えなくなってしまっている。

 言ったら最後、千早くんが変わってしまうかもしれない。

 最悪の場合、ふられてしまうかも……。

「……って、どうしたの亜澄。急に暗い顔しちゃって」

 そんな悩みがつい顔に出てしまったみたいで、桜子が心配そうに尋ねてきた。

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