千早くんは、容赦が無い
 でも返しそびれちゃったな。

 まあ、明日でもいいか……。

「亜澄」

 ぼんやりと本のことを考えて歩いていたら、いきなり名前を呼ばれた。

 驚いて足を止めると――。

「り、陸?」

 陸が私の目の間に仁王立ちしていた。

 その様子は、まるで私を待ち構えていたかのように見える。

 実は陸とは、千早くんの過去の話をした後は会話をしていなかった。

 全国大会で準優勝になったからか、記念試合などが入ってあまり学校に来ていなかったんだ。

 それに教室で居合わせても、気まずいのか陸の方が私を避けているように見えた。

 この前強く反論してしまったことを私は謝ろうって思っていたんだけど……。

 陸が私を拒絶しているようだったから、なんとなく先延ばしにしていた。

「怖い顔して、どうしたの……?」

 眉間に皺を寄せて私を見ている陸。

 なんだかただならぬ気配を醸し出していて、私は戸惑いながら尋ねた。

 すると陸は、低い声でこう言った。

「……千早と付き合ってるんだって?」

「えっ……。う。うん」

 想像していなかった質問に驚きつつも、私はやっとのことで頷く。

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