千早くんは、容赦が無い
 千早くんはいつものように「おー」と緩く言うけれど、傍らの陸は千早くんを見るなりちょっと嫌そうな顔をした。

「あー、千早。おはよ」

 引きつった笑みを浮かべながら陸が言うと、千早くんは満面の笑みを浮かべる。

「おー陸。俺の彼女を送ってくれてありがとう」

 どうしてか分からないけれど、「俺の彼女」という部分で語気を強めて言う千早くん。

 陸は眉間に皺を寄せる。

「はあ、それはどうも。……なんだよ、朝の時間くらい俺にくれたっていいじゃん」

「え、だからちょっとだけ譲ってやったじゃん。本当は嫌だけど、陸は亜澄の幼馴染って話だからさー。特別だよ」

 千早くんは相変わらず笑顔を浮かべているのに、どうしてなのか圧を感じる。

 ふたりの間にバチバチと火花が散っているようにすら見えた。

 え、え?

 一体これ、どういう状況なんだろ。

「……本当にちょっとだけだなあ。千早ってケチだな。そういうとこ亜澄に嫌われんぞ」

「亜澄に寄ってくる男にしかケチケチしないから大丈夫だよ」

「あーそうですか。うっざ」

 苦虫を噛み潰したかのような顔をする陸。

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