千早くんは、容赦が無い
「もう、陸ってば。朝からふたりの邪魔しちゃダメじゃないの」

「な、なんだよー。……桜子まで」

「はいはい。まあ失恋もいい経験だよ、陸。さー行った行った」

 桜子が陸の背中を押しながら早歩きで進み始める。

「じゃー亜澄、また後でね! 千早くん、亜澄をよろしくっ!」

「う、うん。また後で」

「はーい。桜子ちゃん、また今度」

 私に笑顔を向けながらも、連行する陸に向かって「まあ愚痴なら私が聞いてやるぞ!」なんて、励ましている桜子。

 陸も「すげー長い愚痴になるけどいいのか……。まあ、頑張って吹っ切ったんだよー」なんて、涙目で言いながら去って行った。

 ふたりのそんなやり取りが少し気になっていた私だったけれど。

「やっとふたりきりになれた」

 千早くんが私の顔を覗き込んでそんな甘いことを言ってくるから、私は一気に彼のことしか考えられなくなってしまう。

「ち、千早くん……」

「じゃ、遅刻しない程度に、のんびり行こうか」

 そう言って私の手を握ってくる千早くん。

 私より一回りほど大きい千早くんの手からは、とても優しい温かさを感じた。

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