千早くんは、容赦が無い
な、なんか悔しい気がする……。
でもどうして、千早くんといるとこんなに楽しい気持ちになるんだろう。
千早くんの発言を思い出しては照れてしまう私。
だけど千早くんが好きなのは、「ちぇりー」なんだっていう事実は、心の隅にはもちろんあって。
あの言葉は私に向けられているんじゃなのかもって思うと、憂鬱な気持ちにもなってしまう。
だけど目の前で言われた千早くんの「好き」とか「かわいい」は、そんなこと一瞬忘れちゃうくらいふわふわした気分にさせられちゃって。
目まぐるしい感情の起伏を感じながら、私は家へと続く川沿いの道を歩いた。
――すると。
あれ、この音……。
少し離れたところから、きれいな音色が微かに聞こえてきた。
それが聞き覚えのある音だったので、自然と私は音の在りかを探してしまう。
少し歩いたら、すぐにその正体が分かった。
河川敷の高架橋の下にいたのは、クラリネットを演奏している麗奈だった。
麗奈は週末や長期休みになるとマイクラリネットを持ち帰って家で練習しているから、私はその音を覚えていたんだ。