君だけに捧ぐアンコール
「う、うまい」

「ありがとうございます?」

「おお、加賀宮くん、上手上手~」

 それは4月も2週目に突入した金曜日、この険悪な雰囲気で週末をどう過ごすか思い悩んでいた時だった。今日の夕食は昨日の夜仕込んでおいたカレーだ。突然、加賀宮さんが料理を褒めはじめ、それを隆文さんが褒めている。どういうことか混乱していると、隆文さんが種明かしを始めた。

「加賀宮くんね、花音ちゃんが心配だったみたい」

「ちょ、師匠…!」

「洗濯も掃除も食事も、働きながら花音ちゃんが引き受けてくれるもんだから、彼気にしてたみたいでね。それで自分で洗濯するとか、朝食は簡単なものでいいとか言い出したみたいだよ。」

「あぁ…」

 言い方って大事だな。私のことが嫌いなのだと思っていたけれど、気遣っていてくれたのか。気付けないわ。

「ふふっ。加賀宮さん分かりにくい!ありがとうございます!無理のない範囲でやってますので、お気になさらず!」

「い、いや、あ、うん。ありがとう。」

 どんどん小声になったけど、ちゃんと最後のありがとう聞こえましたよ。加賀宮さんってじつはシャイなだけなのかな。

「さて、和解したところで!僕は明日から出張に行ってきます!」

「えっ隆文さん出張なんですか?!」

「うん、1泊2日で岡山に。学生たちと合同コンサートがあってね。」

隆文さんが週末まるっと不在だなんて!

(つまり、この土日は二人きり・・・)

和解したとはいえ、気まずいな。食事だけ作って自分のアパートに帰ろうかな…。

「加賀宮君は花音ちゃんと一緒にお留守番してもらうからね。男の子がいたほうが安心だろう。」

「い、いや、隆文さん…」

「分かりました。留守は守ります。」

(はぁ~!?何言ってるのこの人~?!)

そうして不安な週末が幕を開けたのだった。

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