君だけに捧ぐアンコール
朝ごはんは隆文さんも一緒に食べて、早々に出発していった。朝から平日ためていた家事をこなして、お布団を干し、昼食を用意する。

「いただきます。」

ちゃんといただきますは言ってくれるのよね。ピアニスト特有だろうか、その長い指先がきちんと伸びて、手を合わせる仕草はとても美しい。
思わずじっと見ていると、「なにか?」と気づかれてしまった。

「あ、いえ、隆文さんについていかなくてよかったんですか?」

「別にいい。練習できるし。」

「そ、そうですか。」

この家には完全防音室があり、そこに2台のグランドピアノが置いてある。
扉を閉めるとほぼ聞こえないので彼のピアノは聞いたことがない。

「あの、もし、よかったら…」

***

 そうして私の要望で、彼のピアノを聴くことになった。普段防音室の外からは彼の音が聴こえないので、ずっと聴いてみたかったのだ。

 二人で防音室に入り、私は入り口付近にある椅子に座る。

「何弾けばいい?」

「お好きな曲で結構です!私色々聴いてるんで、マイナーな曲でもどんとこいです!」

 そうして弾き始めた彼の音を聴いて、私はとんでもなく驚いたのだった。
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