君だけに捧ぐアンコール

 私の両親は7歳の時に交通事故で亡くなった。兄弟はいない。たった一人生き残った私を、叔母夫婦が引き取ってくれた。だが、ピアニストとして成功していた二人はあまり家にいることも出来ず、私は一人この家で泣いていることも多かった。

 私より少し大きな、小学校高学年くらいの生徒さんが来た時だった。

 いつものように泣いていた私を、彼はピアノの前に連れてきた。そして、両親がたびたび聴かせてくれた「私の曲」を弾いてくれたのだ。

「それ、かのんの曲だ」

 今ならわかる。パッヘルベルのカノンだった。私の名前の由来。
両親が聴いていたどの音源よりも、優しく甘く響いて、涙がもっと出てきた。

「パパとママに会いたくて泣いてたの。」

 聴いていたら会えたみたいで嬉しかった。でもありがとうも何も言えないまま、泣き疲れて眠ってしまった気がする。
あのお兄ちゃんは今どこにいるんだろうな。

 この記憶が蘇ったのは、昨日加賀宮さんが弾いてくれた曲が、パッヘルベルのカノンだったからだ。私の名前が花音だから選んだのだろう。
あのお兄さんと思考回路一緒ってことか。

(KEIが家にいるなんて、春乃先輩にいったら大変なことになるな。)

 色々質問攻めにしたいのに、握手だってサインだってほしいのに、キスのことを思い出すと顔も見れないし会話もうまくできない。
 天国のお父さん、お母さん、これから私どうしたらいいの。
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