君だけに捧ぐアンコール
『なーんにも自分から動いてないのに世界がどうのこうの感じて泣いてたの?んもうっ、可愛いけどダメダメ!』
「…ご、ごめんなさい」
真知子ちゃんに洗いざらい話したが、なんだか叱られている。どう考えても私はこれから失恋するだろうに、行動しろと説得されているのだ。
『いいことを教えてあげる。私も姉さんも、自分からプロポーズして旦那様を勝ち取ったのよ!』
真知子ちゃんなら考えられるが、お母さんもだなんてびっくりだ。お母さんの記憶は随分色あせてきてしまったが、物静かな優しい母だったように思う。
『私はね、隆文さんってコンクールで賞を絶対かっさらうやなやつだったんだけど、ある時笑顔が可愛いって気づいて、私のものにしちゃおって思ったの。誰にも渡せないと思って!猛アタックよ猛アタック』
「真知子ちゃんならできそう。」
ものすごく安易に想像できた。でもお母さんが猛アタックするのは想像しがたい。
『姉さんは両想いだけどなかなか告白してくれない兄さんにしびれをきらして自分から結婚したい!って言ったって言ってたわ』
なるほどそれならちょっと想像できそう。お父さんものんびりしているタイプだったし、お母さんが決断してくれたから今の私があるんだね。
「お母さんもかー。そんな話初めて聞いたよ」
『そうね、初めて教えちゃった。隆文さんから恥ずかしいから内緒にしてって頼まれてたから。』
「わーばらしてるー!」と私が笑うと、『花音が元気になるためならいいでしょ』と真知子ちゃんは開き直った。
『諦めないで、もう少し頑張ってみたら?ダメだったら帰国して、また話聞くわ』
「うん、ありがとう。」
真知子ちゃんに元気づけられて、家路を急ぐ。まだ一緒に暮らしているし、そばに居られるだけでビッグチャンスだ。