君だけに捧ぐアンコール
 年度末の慌ただしさは社会人特有のものだろうか。
学生時代は、別れの季節でもあり、新生活にむけてドキドキしたり、春休みが訪れるわくわくする期間だったように思う。しかし、就職してからずっと、この3月の忙しさは目が回るようだ。
 昨日までの数日で残業をたっぷりしたことで何とか今日は定時退社できた。今日は、春乃先輩から誘われた演奏会の日。春乃先輩への花束を購入して、急いでホールに向かう。

(春乃先輩ったら演奏会が今月末だなんて急なんだから!)

 客席をいっぱいにしないといけないといっていたが、事前に調べたら満員御礼状態のコンサートだった。今日の曲目が、私が好きな曲なので誘ってくれたのだろう。先輩の優しさ、しっかりと耳に聴き納めます!

 今日は少しだけきれいめな服装にした。足首まであるロングワンピにジャケットを羽織っている。靴はお気に入りの白いパンプス。「クラッシックコンサートは敷居が高い」と思われがちだが、海外のようなドレスコードはない。だが、お洒落をして優雅な気分で聴きたいので、演奏会に赴くときは必ず少しだけ綺麗にしている。お化粧もいつもより大人っぽい仕上がりだ。

 「本日は演奏会にお越しいただき──」

アナウンスが終わると客席の明かりが落とされた。ステージ上のオーケストラ団員達が音合わせをする。
 さぁ開演だ!わくわくする!

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