君だけに捧ぐアンコール
 いよいよ迎えたテレビ放送日。
私は仕事を張り切って切り上げて定時退社、放送時間に間に合うように晩御飯を超高速で作った。今夜はテレビ出演のお祝いに手巻き寿司。魚も海苔も切るだけだし、酢飯と卵とキュウリに大葉、カニカマを用意。ツナマヨも和えるだけ。

「手巻き寿司おいしかったよ~。洗い物やっとくから、テレビの前にスタンバイ!」

「ありがとう!ほらほら加賀宮さん、今日はKEIのテレビ初出演の日ですから!」

「まぁでもあまりはっきりと顔を映さないようにお願いしてあるんだよね?」

「はい」

「えええ!そうなんですか?」

「なんとなく。音で勝負、したいし。」

おおお、イケメンに生まれてくるからこその余裕なのかしら。
確かにこれだけのイケメンがあんなに素敵な音でピアノ弾いたら別のファンがわんさか騒ぎ出しそう。

そうしてテレビを視聴したのだが。

「…電話、してくる。」

加賀宮さんは早速抗議の電話をしに行ってしまった。

「がっつりドアップだったねぇ。」

顔を映さないという要望は、見事に却下されていた。
顔も声もしっかり放送されていたし、まるでそれしかセールスポイントがないかのように「イケメン」であることを強調した演出だった。

「しかも、ユリコ・カガミヤの孫って…」

彼の紹介の中で、「ユリコ・カガミヤ」の孫だと言われていた。KEIに興味を持ち始めたときに調べた時には出てこなかった情報だ。

「うん、それは本当。しかしこれはまずいことになりそうだなぁ」

「まずいこと?」

「うーん」

隆文さんもまた、難しい顔をして、電話をしてくると部屋へと戻っていった。
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