君だけに捧ぐアンコール
 テレビ放送から3日が過ぎた夜。私たち3人はネットの画像を見ながら深刻な顔でリビングにいた。

「予想以上の速さで大変なことになってきてるみたいだ。」

 隆文さんがタブレットでニュースを見ながら言った。どれも『若手実力派ピアニストKEIの秘密!』とか『超大物ピアニストの孫・KEI特集』とか好意的な記事ばかりではあるが、中には椿原葵との交際やKEIの交友関係と称して隆文さんや真知子ちゃんの名を挙げ、ピアニストたちに可愛がられているだけ、といった腹立たしい記事もある。

「すみません…」

 加賀宮さんがシュンとしている。今のところ仕事は減るどころか、いろいろなメディアからたくさんアポが入っているようだ。今後は正式に隆文さんの事務所に入り、音楽活動をしていくことになるのだそう。マネージャーさんがつけば、この騒動も少しは納めてくれるのでは、と隆文さんが言っていた。

「加賀宮君のせいじゃないよ。」

「この間のテレビ出演が話題になって、KEIの顔がSNSで拡散されているみたいですね。動画の再生回数が急上昇しているし…。」

 イケメンだもの。こんなイケメンのこんな素敵な演奏聴いたらそりゃみんなファンになるでしょう。ファンだから分かる。

「花音ちゃんはKEI君のファンだもんね。マスコミも色々かぎまわっている。僕の大学にも来てたし、この家に来るのも時間の問題かもなぁ。」

 隆文さんがある記事をピックアップして見せてくれた。
そこには『イケメンピアニストKEIは、ユリコ・カガミヤの孫!』という記事だった。

「加賀宮百合子の孫だってことで彼女の古いファンも盛り上がってるみたいでね。しばらくはその話題で持ちきりだろう。」
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