君だけに捧ぐアンコール
 深夜、寝静まった部屋に一人分の寝息。加賀宮さんには客用布団を使ってもらっている。恋人同士なんだから、シングルベッドで二人で?!とちょっとドキドキしたけど、それどころじゃない。
 よく泊まりにくる真知子ちゃんが買ったお布団は、それはもうフッカフカなので、そちらで寝ていただいた。

 私は彼が眠れたのを確認して、少しネットで調べものをすることにした。

「ユリコ・カガミヤ」

 彼女の音楽は煌びやかで雄大、表現力も技術力も抜群で、ファンが多い。今朝見つけた記事では、KEIのピアノの音色は、そのコピーだと書かれていた。

 温かい演奏。確かに似ている。でも違う。うまく言えないけど。

 彼の力になりたいのに、どうしたら力になれるのか、分からないまま、夜が更けていった。



 翌朝は冷蔵庫に何も入っていなかったので、近くのパン屋さんでパンを買ってきた。パンとコーヒーで朝ごはん。質素だけど許してもらおう。今日の仕事の後は買い物かな。

「パンも買いに行かせてすまない」

「いいですよ!加賀宮さんよく寝てたし、朝のお散歩すがすがしくて良かったですよ」

 やっぱり少し元気がない。この部屋にピアノがあったらよかったのに。

「じゃぁ私仕事行ってきますね!合鍵置いておきます」

「ありがとう」

「あ、あの!いってきますのキスとか…してもいいですか」

「ははっなんだよそれ」

 久々にみる彼の笑顔にきゅんとする。私はこうして、彼の傍で、恋人としてしかできないなにかを探していこう。

「いいじゃないですか乙女の憧れですよ?」

 ねだる私に根負けして、苦笑いしながらキスをしてくれた。

「い、いってらっしゃい」

「ふふふっ、ありがとうございます。いってきますね!」

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