君だけに捧ぐアンコール
私は幼い頃からクラシック音楽が大好きだった。
育ての親である叔父夫婦の家はピアノ教室で、ピアニストの卵たちが寝泊まりしているような家だったことも要因の一つ。叔父夫婦はどちらもピアニストだった。だからピアノの音が常に家の中に響いていた。
ピアニストとして活動する彼らが家を空けることも多く、私はほとんど留守番。家政婦さんや下宿生がいたけれど、いつも寂しいときはクラシックを聴いていた。
目を閉じて聴けば、鮮やかなヨーロッパの景色が見えたり、雄大な河川を思わせたり、かわいらしいおもちゃの人形を思い浮かべたり。
ピアノは幼い頃から習っていたものの、ピアノ以上にオーケストラに興味を持つようになった。ピアノはそこそこの腕前までにしか上達していなかったし、オーケストラにはピアノはなかなか含まれないのだ。
そこで、オーケストラ部がある中高一貫校に進学。中学一年生からバイオリンに触れ、バイオリン奏者として念願のオーケストラデビューを果たしたのだった。
担当楽器をバイオリンに決めたのは偶然だった。管楽器や打楽器のようにソロもなく、バイオリンパートとして演奏する。パズルの1ピースに過ぎない存在。
でも、音楽として完成した時の、皆で一つの演奏をしている一体感が堪らなく好きだった。
当たり前のように、オーケストラサークル、つまり交響楽団がある大学に進学。
そこで春乃先輩達仲間とバイオリンを弾きまくる4年間を過ごした。
唯一無二の仲間を得て、とても充実した日々。
音楽に始まり、音楽に終わる毎日は楽しかった。