君だけに捧ぐアンコール
 今日の演奏会は、『KEI』という若いピアニストを客演に迎えたピアノ協奏曲と、ショスタコーヴィチの交響曲第5番という曲目。

 ブザーが鳴る。アナウンスが終わると客席は暗くなり、オーケストラが音合わせをした。そして指揮者が入場する。続いてピアニストが入場した。客席から拍手を送る。

 KEIについて事前に調べてみたが、SNSでいくつか動画をアップしていることと、CDを過去に一枚リリースしていることくらいしかわからなかった。
受賞履歴は本名がばれるから載せていないのか、特にコンクールなどには出ていないのか、謎の多いピアニストだ。

 SNSの動画も手元だけの映像で顔はあまりわからなかった。
ただ生演奏を聴いたファンが次々とSNS上で盛り上がり、今後いろいろな演奏会に出演予定なのだとか。お手並み拝見だ。

 ラフマニノフ作曲、ピアノ協奏曲第2番。

 冒頭は重厚な音色。重い重い鐘の音を表すピアノの和音。そしてオーケストラがそれに厚みを足していく。
甘いメロディは甘く、しかし決して軽くなく、キラキラと輝いている。
オーケストラのお膳立てを活かしながら、自分こそが主役だとピアノが歌い続けている。

(な、何、この音!!)

 衝撃を受けた。
 今までの私が演奏したどの曲よりも、心の底に響く。耳が喜んでいる。自然に目が潤む。鳥肌が止まらない。全身が歓喜で震えている。
 叶うなら、客席に座りつつも、あのオーケストラの末席に座ってバイオリンを弾きたい!あの素晴らしい演奏をするオーケストラの1ピースになりたい…!

とにかく私はその一曲で、彼のピアノの虜になった。
 

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