幼なじみじゃ、いられない。


先生によるレッスンが終わって、ピアノの部屋にりっくんとふたりきり。


「練習してきた?」


ヴァイオリンのケースを開け、準備するりっくんに「うん」と返事すると、「それじゃあ始めようか」と、ピアノの前に座るあたしの斜め後ろに立った。


楽譜を広げ、初めの位置に指を置く。

りっくんに見られるのは、先生に見られるより緊張する。

だけど、あたしは小さく息を吸って、ピアノを弾き始めた。


演奏するのはドビュッシーの『月の光』

とてもゆったりした曲で、だからこそ音色が鮮明に映るから難しい。

でも、レッスンの後だからか、いつもより上手く弾けているような気がする。


ピアノのソロから始まり、そして重なるヴァイオリンの音色。


優しく後押ししてくれるようなりっくんの音色に、安心するようで指が滑らかに動く。


りっくんのレベルには遠く及ばないけど、こうして一緒に演奏するのが好き。

りっくんの音色はどんな時も優しくて、嫌なことも悲しいことも、演奏している間は忘れられるから──。
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