幼なじみじゃ、いられない。
「すごい!いい感じに弾けたじゃん」
「うんっ!」
演奏が終わってりっくんに褒められ、あたしは大きく頷いた。
「この前りっくんが教えてくれたからだよ」
「いや、ひなの覚えが早いんだよ」
言いながらピアノの側の机から椅子を引き、ヴァイオリンを片手に、こっちに向かって腰掛けるりっくん。
「ふふっ」とあたしが思わず笑うと、「なに?」と首を傾げた。
「いや、いつでも褒めてくれるの、先生と同じだなーって思って」
「え」
「親子だね」と続けたあたしに、恥ずかしさからか少し赤くなりながら、「まぁ」と答えて顔を逸らす。
先生もりっくんも、子どもの頃からずっと変わらない。
いつでもあたしに優しくて、ちょっとしたことで褒めてくれて。
このピアノ教室は、どこよりも居心地の良いあたしの居場所。
せっかくだから、もう少し弾いてみようかなと鍵盤に指を乗せようとした時だった。
「あ、明日14日か」
壁に掛けたカレンダーを見て言ったりっくんの言葉に、ピタッと指を止めた。