幼なじみじゃ、いられない。


『藤沢』という表札がかかった一軒家。

うちから10分もかからない距離にある大地くんの家。

時の流れは感じるものの、大きく立派で変わらない大地くんの家に、胸が少し痛くなるのは……昔のことを思い出すから。


自分の精神衛生上、出来ることなら来たくなかった。

だけど、大地くんの家の前にいるのは、頼まれごとをされてしまったから。



『あー、葉月さんいい所にいた!ちょっといいかな?』


何事もなく一日を終え、帰ろうとしているところを先生に呼び止められて。


『葉月さんって、東学区に住んでたよね?藤沢くんの家って、近くないかな?』

『あ、はい、近い……ですけど』

『やっぱり!?良かった!あのね、今日藤沢くんに渡しておきたかった書類があって、もし良かったら届けて欲しいの』

『えっ』

『よろしくね!』


「もし良かったら」なんて言いながらも、あたしが返事するより先に、既に手渡された茶封筒。

そのまま先生は手を振って行ってしまって、あたしには届けに来る他の選択肢がなくなってしまった。

美波ちゃんが付き合おうかと言ってくれたけど、今日はピアノのレッスンもあるし、届けるだけだからと断ったんだけど……。
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