幼なじみじゃ、いられない。

「いった……」と鼻をさすりながら、不本意ではあるけれど彼に触れてしまったことに、少しドキッとしてる。


「いきなりなっ……」


あたしはそんな気持ちを隠すように、『何?』と問いかけようとしたけれど、言葉は途切れた。


進行方向を真っ直ぐ見つめる大地くん。


その視線の先は、あたしの家の前。

そして、そこに立っている人は──りっくん。


「え?」と声を上げるよりも早く、ヴーヴーとカバンの中のスマホが音を立てずに鳴る。


電話をかけてきた相手は、きっとりっくんで間違いない。

あたしの目に映るりっくんは、スマホを耳に当て誰かの応答を待っているから。


そうだ、もうすぐピアノのレッスンの時間。

だから迎えに来てくれたんだ。


「……あのっ、ありがとう。ここでもう大丈夫だから」


あたしは大地くんにそう告げて、そのままりっくんの元へ向かおうとした。


──だけど、彼の横を通り過ぎようとした瞬間、腕を掴まれた。
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