幼なじみじゃ、いられない。

忘れようとしていたのに、一瞬にして思い出す、大地くんにされたキス。


あれは大地くんが強引にしてきたもの。

後ろめたいことなんて何もない。


──だけど。


「あ、アイツとももうした?」


意地悪に笑う大地くんの言葉が、あたしに追い討ちをかける。


同時に思い出すのは、あたしの誕生日。大地くんとのキスと同じ日。


ゆっくりと近付いて、触れようとして、触れなかったりっくんの唇。

『ちょっと急ぎすぎだね』と、少し寂しそうに笑ったりっくんの顔。



そして、大地くんのことばかり考えてしまっていた自分──。



……もし、りっくんが大地くんとキスしたことを知ったら、どう思うんだろう。


怒る?悲しむ?

ううん、りっくんなら優しく笑って許してくれるかもしれない……でも。


全身の力がするりと抜ける。

その瞬間、あたしはギュッと大地くんに抱きしめられて。


鳴り続けていた着信が止まる。


この日あたしは、ピアノのレッスンに行けなかった──。
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