幼なじみじゃ、いられない。

忘れていたなら、そのまま思い出してくれなくて良かったのに。

何で今更こんな……。


「まあいいや。話は終わった?早く戻らなきゃ次、移動教室だよ」


あたしから引き離すように、大地くんの腕をグイッと引き寄せる椎名さん。


「分かったって」


大地くんは椎名さんに目をやり、気怠げに返事すると、


「じゃあ、またな。ひな」


ポンッと軽くあたしの頭に手を乗せ、背を向けて歩き出した。


「……」


自分の身に起きたことに頭が付いていかず、ただ立ち尽くすあたし。

すると、少し距離が開いてから椎名さんは振り返り……あたしをキッと睨んだ。


その表情が何を意味しているのかは分かる。

だけど、だからこそ……困る。


だって、あたしは何もしていない。

むしろ、大地くんのことを諦めようとしていたのに、どうして……。


「ひなっ、藤沢くんと何話してたのっ!?」

「葉月さんって、藤沢くんと幼なじみだったの!?」


千明ちゃんと佳穂ちゃんの他にも、あっという間にあたしの周りを囲むクラスメート達。


「あっ、えっと……久しぶりって挨拶されたくらいだよ」


動揺を隠して、愛想笑いを返すのがやっとだった。
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